かに
えせいや
1 : 可児江西也に覇気がない
黒板を背にして、クラス委員が告げた。
「えー……そういうわけで、多数決により、うちのクラスの出し物は喫茶店ということになりまし
た」
まばらな拍手。
ちなみに黒板に書かれた票数は「喫茶店」が一二票。 「メイド喫茶」が八票。 『執事喫茶」が五票。
『相撲喫茶』が二票。みんな喫茶店ばかりである。
(そもそも『相撲喫茶」というのは何なのだ……?)
教室の最前列、ど真ん中の机に突っ伏し、うとうとしていた可児江西也は、ぼんやりしながらそう
思った。このホームルーム中、ほとんど居眠りしていたので、提案者からの説明を聞いていなかった
のだ。
窓際、最後尾の席が恋しい。いわゆる『主人公席』というやつなのだが、 学期最初の席替えのく
じ引きで、西也はこんな場所に来てしまった。
最悪の席である。
教師のすぐ目の前で、パークの収支計算書や各エリアの時間別動員表などを読むわけにもいかない
し、メールの返事すら書くことができない。もちろん居眠りも困難だ。
それでもホームルームなら、すこしはまどろむことができる。 両肘を机上について、頭をうなだ
れ、いちおう起きているような姿勢を保ち、ほんの五分か一〇分ほど。それでも彼にはありがたい時
間だった。
(文化祭か…)
まったく、面倒なイベントをやってくれるものだ。 クラスみんなで 丸となって、大きな日標のた
めにがんばろう!……などと、のんきに青春を謳歌しているヒマなど俺にはないのだ。
で喫茶店か。そういえばカフェコーナーの新メニューの試食が今夜だったな。 ただのケーキセッ
トで八00円というのは、果たして大丈夫なのだろうか? もっと安くした方が……。
ああ、いかんいかん。いまは頭を休めよう。ぼーっとしなければ。ぼーっと。
クラス委員が議事を続ける。
「それでは喫茶店をやるにあたって、係を決めたいと思いまーす。 ウェイトレス、ウェイターと、お
茶入れる係と、ポスター書く係と……こんなところかな?」
会計を忘れてるだろ。
と西也は思ったが、もちろん口には出さない。いま積極的に発言などしようものなら、ヤブヘビも
いいところである。 必ずクラスの連中の視線が、 「じゃあ会計は可児江くんだね」なんて感じで集ま
ってくるに違いない。ここは海底に横たわるカレイかなにかのように、徹底的に目立たず、静かにし
ている方がいい。
しかしクラス委員の議事進行は、どうにもぎこちない。なにしろ喫茶店なんていっても未経験の世
界だろうし、どんな係が必要なのかもピンとこないのだろう。
担任教師はホームルームのときは席を外す習慣だし、助言する人間もまったくいない。
ウェイトレスやらウェイターやら、わかりやすい係はさっさと決まっていくのだが、ちっと大事な
役職は話題にすら上らない。しかも係分担のことは中途半端なままで、どんなメニューがいいかだの、

Tidak ada komentar:
Posting Komentar